食べる旬と育てる旬は違う 野菜が美味しくなる季節は冬
野菜の旬については、いくつかの記事で書いてきました。
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今回は。
食べておいしいと感じる季節と、野菜が育ちやすい季節が違うという話です。
食べるときの旬と、育てるときの旬は違う。
このことを理解すると、無農薬野菜だ!有機野菜だ!と美味しいものを求めなくてもスーパーに売られている野菜でじゅうぶんに満足して美味しく頂けるようになります。
また。
美味しさを追求して育てられた有機野菜は、よりいっそう美味しく食べられるようになります。
ぜひご覧ください。
寒さに耐えるための工夫
まずは。
食べるときの旬と、育てるときの旬は違う。
ということについて大根を例にしてみていきます。
一般的に、大根の旬は11月~2月と言われています。
これは食べたときにとくに美味しいのがこの季節だという解釈、つまり食べる人の立場からみたときの旬です。
なぜ美味しくなるのかというと、寒さで甘くなるから。
たいていの野菜にとっては、日本の冬の寒さは耐えがたいものです。
でもそこにタネを播かれて、そこで育てられてしまった以上は寒さに耐えて春を迎えなければなりません。
だから、寒さで凍ってしまわないように、環境に適応していく必要があります。
その対策が、葉や根に糖分を増やすということ。
水って0度を下回ると凍りますよね。
野菜はその身体を80%以上の水分で構成していることがほとんどなので、0度を下回るとそのままでは凍ってしまうんです。
凍ったらまずい。
野菜はそう思っています。
死んじゃいますからね。
そこで。
危機を感じた野菜がとる行動、それが凝固点降下です。
水分のなかに揮発しない糖分を混ぜることで、水が氷に変わる温度を下げているんです。
そのままなら0度になったところで体が凍ってしまうところを、糖分を増やすことで-5度になっても凍らなくなる。
そういう凝固点降下の現象を利用しています。
寒さに耐えるため、植物が編み出した工夫。
葉や根に糖分を増やして寒さに耐えている野菜を、私たちが頂いていることになります。ありがたいことです。
大根の旬が11月~2月だと言われているのには、こんな裏事情があったんです。
快適に育つ季節は違う
一方で。
大根を育てるときには11月~2月では寒すぎます。
寒すぎて育ちません。
寒さに耐えることに必死ですから、生長している余裕なんてありません。
大根を快適に元気に育てようと思ったら、冬ではなくて秋が気候的に合っています。
生育適温は15~20度くらいと言われているので、日本の気候(愛知県)でいうと10月とか11月あたりでしょうか。
9月くらいにタネを播いて、10月11月で大きく育てる。
そういう育て方が、大根にとって気持ちよく育つことができる栽培スケジュールになります。
ということは、育てるという点でみれば大根の旬は10月11月なんです。
食べるときの旬とは異なります。
育てるなら秋が旬、食べるなら冬が旬。
ひとことでいえばそういうことです。
このことは大根に限らずほとんどの野菜に言えることです。
0度付近の寒さに耐える性質を持っていない、トマト・ナス・ピーマンなどのいわゆる夏野菜は寒さに負けて枯れてしまいますが、凝固点降下の能力を持っている多くの野菜は冬にもっとも美味しくなります。
キャベツ、ブロッコリー、白菜、ネギ、水菜、小松菜、人参、カブ、ほうれん草・・・。
かなりの種類の野菜で、冬がもっとも甘く美味しくなります。
ここから言えることは。
冬は野菜が美味しい季節だということ。
遠くから運んでくるような夏野菜は別として、多くの野菜は冬に食べたらとにかく美味しいんです。
スーパーで買ってくる普通の栽培で育った野菜でも、農家から直接買っている有機野菜でも、寒さに耐えて糖分を蓄える点では同じです。
栽培による味の差なんて、寒さに耐えた甘さに比べれば微々たるものです。
一年を通すと美味しさには波がある
そして。
残念なことに、冬野菜が美味しいという事実とは逆に
春の野菜は美味しくない
という事実もあります。
夏以外の、春と秋と冬はだいたい同じような種類の野菜が収穫できるんですが、そのなかでも特に春は野菜が美味しくなくなる季節です。
その理由は・・・わかりますよね。
寒くないから。
どんどん暑くなっていく季節だから。
冬に美味しい野菜を食べて舌が肥えてしまっているから、春野菜の味には満足できないのかもしれませんが、とにかく暑さで体がゆるんでしまった野菜は味もゆるんでしまいます。
だから春に野菜を食べるな、ということではありません。
季節による味の差を知ったうえで、野菜を味わいましょうということです。
寒さから解放されてゆるんでしまった人間の身体を、苦味があったり美味しさが落ちている野菜を食べて引き締める。
それくらいの感覚で食べるといいのではないでしょうか。