減農薬栽培は2つのルートからニーズを満たしていく

これまでたくさん記事を書いてきましたが、そのほとんどは
農薬を使ったいわゆる慣行農法
もしくは農薬を使わない有機農法
この2つに関することです。

慣行農法と有機農法。
このふたつは、言ってしまえば対極にあります。
どこまで行っても交わることはありません。
それはベースになっている考え方が違うからなんですが、どちらも食べてくれる人たちのことを考えて、お客様に喜んでもらうために栽培をしている真っ当な農業の形です。
どちらが悪くてどちらが正しいというものではありません。
お互いが正しいと思う道を、ひたすらまっすぐに進んでいる。
ただそれだけのことです。

さてここで。
農業の形には慣行農法と有機農法、2つしかないのかというとそんなことはありません。
両者の間をとっている栽培方法ももちろんあります。
今回はその話。
減農薬に関する話になります。
農業界の第三勢力、減農薬栽培について知ると農業にもっと興味が湧くと思います。
有機栽培こそが正義!と信じている偏りすぎた思考をすこしほぐしてくれるはずです。
ぜひ最後までご覧ください。

 

慣行農法から一歩進めた栽培方法

tokusai
(画像参照:農水省 特別栽培農産物に係る表示ガイドライン
まず最初に言っておきますが、スーパーなどの小売店で並んでいる野菜に
減農薬栽培
と書かれた商品は出回っていません。
低農薬とか減農薬とか、あいまいな表現は消費者を混乱させるからという理由で有機JAS法が定められており、減農薬栽培の野菜は
特別栽培農産物
という表現しか許されていないからです。
ですので、今回は分かりやすく減農薬栽培という言い方をしていますが、厳密には特別栽培に分類されるものだと考えてください。


一般的に減農薬栽培と言われているものは、大きく分けると2種類あります。
ひとつは農薬を使った一般的な農法、慣行農法から農薬を減らしていく減農薬栽培。
世間的に言われている減農薬栽培というのはこれを指します。

各団体によって定義があいまいなんですが、一般的にはその地域で標準的に使用されている量の半分以下であれば、減農薬であると認められています。

その地域で?

と思われた方、するどいです。
じつは。
減農薬と名乗るために、国の基準として一律で使用量が定められているわけではないんです。
各地域で慣行農法の使用レベルと比べて、半分以下なら減農薬と認めましょうということになっています。
もちろん。
ここで目くじらを立てる必要はなくて、暑くて虫や病気が発生しやすい沖縄と、涼しくて虫や病気が比較的少ない北海道とでは、農薬の使用量に差が出るのは当然です。
沖縄の基準と北海道の基準、同じであるほうがむしろ不自然ですよ。
だから、減農薬においても地域ごとに基準が違うのは当然のことだと言えます。


さてここで。
地域差はあるにしても、一般的な農薬の使用よりも半分以下に抑えているんだからいいじゃないかと思いますよね。
たしかにそういう見方はできます。
ふつうに考えればそうです。
でもちょっと考えてみてください。

一般的な使用の半分以下にまで農薬を抑えることができるんだったら、慣行農法もそのようにしたらいいじゃないかと思いませんか?
半分にしてもちゃんと生産できるなら、そのほうがいいですよね。
そうすれば農薬代を半分に減らせるし、農薬を散布する手間もカットすることができる。
農家にとってもいいことばかりじゃないかと思いますよね。
減農薬栽培ができるんだったら、慣行農法すべてが減農薬にすればいいじゃないかと思いますよね。

でもその考えは、ちょっと危険なんです。
そこには、減農薬栽培の危険性が潜んでいることを知ってください。

 

みんなが優秀な農家というわけではない現実

稲穂
JAが音頭をとって栽培されている稲作、お米の栽培には暦が使われています。
●月●日を目安にナントカという農薬を散布する。
穂が出る直前にカントカという農薬を散布する。
というふうに、その地域において栽培に関する暦が作られています。
稲作をする農家は、その暦に従って肥料を入れたり農薬を撒いたりして、安定してお米をつくることができます。

本来であれば、その農地に合ったタイミングで作物の様子を見ながら農薬を散布したり、気候条件を考慮しながら農薬の使用頻度や使用量を加減するものなのに、暦が存在しているからみんな同じように使う。
使わなくてもいいはずの農薬を使ったりすることになる。
暦を使用するということは、みんな一律で農薬使用量が決まっているということなんです。
これは問題です。
作物をみて、気候を見て、農家自身が判断して農薬を必要最低限で散布する。
それが農家の本来あるべき姿だからです。


でも。
ある程度のマニュアルは必要です。
すべての農家が、高い観察力をもっているわけではないし、作物の診断や気候を読むなどの行為をできるわけではないからです。
一律の基準となるものがあって、それに従って農薬を使っていればある程度一定の成果を出すことができる。
そういう基準は、地域の農業全体を安定させるためには必要なものです。
そこを責めることはできません。

 

そもそも。
農薬をなぜ使うのかというと、野菜が虫や病気にやられてしまうのを防ぐためです。
単純に農薬を減らしただけでは、本来の目的を果たすことなく虫や病気にやられてしまう可能性が高くなります。
減農薬栽培をすることによって、農薬使用の目的を果たせなくなってしまっては意味がありません。


安定した成果を出すためにはある程度のマニュアル化も必要です。
そういう意味では、慣行農法が暦をつくるなどして生産の安定に努めているのは評価されるべきことだと思います。
だからこそ、減農薬栽培を実現させている農家というのは、それだけ抜きんでる技術を持っているから減農薬で栽培をすることができると言えます。
誰にでもできることではないんです。

 

未来を担う減農薬栽培 マイナス型

そして。
慣行農法から一歩進んで、レベルの高い減農薬栽培をするのであれば。
有機農法で強く見られるような土づくりをしっかりと考えて、有機栽培の手法もうまく取り入れながら農薬の使用を抑えていく。
そういう取り組みが必要になりますし、先進的な農家はもうすでにそういうことをやっています。
減農薬栽培は、慣行農法をけん引していく、言いかえれば日本の農業を引っ張っていく可能性をもっている未来型農業だと言ってもいいかもしれません。


慣行農法と有機栽培、両者を認めつつ減農薬栽培を実現していく。
慣行農法を基準にして農薬を減らしていく、引いていくという意味で
減農薬マイナス型
というふうに定義しておきたいと思います。

 


次回は。
もうひとつの減農薬栽培、プラス型について書いています。
マイナス型とプラス型、両方を知ることで未来の農業はどんな終着点を迎えるのかを推測できるようになります。
ぜひお楽しみに。

    arrow070_01有機農業の可能性を広げる減農薬栽培

 

 

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