朝どり野菜は本当に美味しいのか
(画像参照:生産農家の直売所『朝採り市場』)
朝どりの新鮮な野菜です!
朝どりの美味しい野菜です!
というのは産直市場などでよく見られる売り文句ですが、本当のところはどうなのでしょうか。
本当に朝どりは美味しいのでしょうか。
って、ふつうはあまり考えませんよね。
収穫をしてから店頭に並ぶまでの時間が短いから、新鮮だから美味しいのだろう。
というくらいにしか考えないのが普通です。
でも私は農家です。
美味しい野菜をみなさんにお届けするために努力するのが仕事の、有機農家です。
なんでそこまで?というところまで突っ込んで考えてこそプロなんです。
朝どり野菜は本当に美味しいのか。
朝どり野菜じゃなくて夕方どり野菜だとダメなのか。
このあたりの事情について突っ込んでみたいと思います。
興味のある方はぜひ最後までご覧ください。
朝どりは新鮮さがウリ
まずは。
なぜ朝採りを強調しているのかについて考えていきます。
ふつうに「新鮮野菜です」とか「採れたて野菜です」とか言えばいいところを
朝に収穫している
という事実を強調するのはなぜか。
これはおそらく、イメージがいいからです。
朝採りと書けば、いまここに並んでいる野菜たちは早朝に収穫されてそのまますぐに店頭に届いている、ものすごく新鮮なんだと思いますよね。
だから、すこしでもたくさん買ってほしいという販売戦略として朝採りという表現をしている。
これがほとんどです。
実際、農家が直接お店に持ち込んできて並べるような直売所であれば、朝に収穫したものを並べておくことは可能ですし、そのようにして並べられた野菜は間違いなく新鮮です。
販売戦略として朝どりを謳っているということは、美味しい状態で買ってほしいという販売側の意気込みでもあるので、朝どり直売所は新鮮な野菜を買いたいのであればお勧めできるところですね。
野菜が新鮮であることは、美味しさを決めるもっとも重要な要素と言えますので、直売所の朝採り野菜は鮮度という観点からみれば最高点がつけられて当然です。
有機野菜や無農薬野菜はどこで買うべきか その4 鮮度
それだけでも直売所で野菜を買うメリットがあります。
植物体の栄養状態からみる
ここからは少し難しい話になります。
野菜をいつ収穫するのかによって、味は変わるのかという話です。
朝どりが新鮮で美味しいというイメージはあるけれど、たとえば収穫したてを食べるのであれば朝に収穫したときと夕方に収穫したときでは違いがあるのか、気になりませんか?
朝どり野菜は美味しいというけど、夕方どり野菜じゃだめなのか。
このあたりについて書いていきます。
まずは簡単に、植物生理について説明をしていきます。
(画像参照:Kids環境ECOワード)
植物は、太陽がでている日中に光合成をすることによってデンプン(炭水化物)などの養分をつくりだします。
つまり、朝から夕方にかけてエネルギーを蓄える活動をしています。
そして夕方から翌朝にかけて、太陽が出ていない間は蓄えたエネルギーを使って茎葉を大きくしたり果実に養分を蓄えたりします。
かんたんにいえば植物は、日中に蓄積し、夜間に消費する、そういう活動を繰り返しているわけです。
ということは。
一日のうちで葉に養分がもっとも溜まっているのは夕方。
一日のうちで果実に養分がもっとも溜まっているのは朝。
ということになります。
つまり。
トマト、キュウリ、ナス、ピーマンのような果菜類は朝どりが美味しい。
小松菜、ほうれん草、キャベツ、ネギのような葉菜類は夕方どりが美味しい。
と言えます。
美味しい、というよりも栄養価が高いといったほうが適切かもしれませんが。
じゃあ、朝どり野菜が必ずしも美味しいわけじゃないのか、朝どり野菜をありがたいと思っていたのは間違いだったのか、と怒りが湧いてくるかもしれませんがそうではありません。
野菜は収穫してからも生きています。
その生きた状態をいかに保って店頭までもっていくのか、つまり鮮度保持が重要になってくるんです。
葉菜類は夕方に収穫したほうがいいからといって、前日に採ってしまうことが本当によいことでしょうか。
早朝に採って数時間後にならべるのと比べて、前日夕方に採った野菜のほうが美味しいと思いますか?
朝どりしたホウレンソウを数時間後に店頭で買えるのと、前日に採っておいたホウレンソウを翌日に店頭で買えるのと、どっちが美味しいと思いますか?
根拠となるデータは見つかりませんでしたが、個人的には鮮度に勝る美味しさはないと考えています。
つまり朝どりホウレンソウのほうが美味しい。
ただしこれは、収穫したあとにどんどん鮮度が落ちていくという仮定での話。
もし収穫してすぐに冷蔵庫へ入れることができるなら、おそらく夕方に収穫したホウレンソウのほうが美味しいはずです。
季節から見る収穫時間帯
収穫してすぐに冷蔵庫へ入れる。
畑で収穫しているすぐそばに保冷トラックが用意されていて、ほぼ鮮度を落とすことなく輸送することができる。
そんな夢のような取り組みをしている農業団体は、実際にいます。
多くはありませんがそういう生産団体はいるんです。
もちろん私のような小さな農家には無理です。
でも、小さな農家は資金力こそありませんが知恵を絞ります。
考えて考えて、最高の一手を見つけ出します。
その一手とは、季節に合わせること。
無理なく育て、無理なく収穫し、無理なく出荷する。
無理しないことが、結果として美味しさをお届けすることにつながっていたんです。
夏野菜の大半は果菜類です。
トマト、キュウリ、ナス、ピーマン、カボチャ、オクラ、トウモロコシ・・・。
夏はとにかく暑い季節。
太陽が出てくる前の早朝でなければ、収穫しているそばから野菜がしおれてしまうんです。
また、気温が高いので収穫したあとの鮮度低下が著しいです。
だから暑い夏は涼しい早朝にしか収穫できません。
果菜類は朝どりが美味しいと書きましたが、どのみち夏は早朝収穫になってしまうんです。
無理なく夏に育てられた実のなる野菜は、無理なく朝に収穫すれば勝手に美味しくなるということが言えます。
では逆に寒い冬はどうかといえば。
冬はとにかく寒くて、夕方に収穫したものであっても一夜を明かすときの温度が低いため鮮度が落ちにくいです。
翌日になっても新鮮さは保たれています。
また、冬に収穫するというのは採った直後から冷蔵庫に入っているようなものです。
日中であっても外気温が低いので。
さらに。
朝どりが美味しいとか言って無理に朝に収穫しようとすると、霜が降りたり凍ったりしていて収穫できなかったりします。
もともと夕方(午後)にしか収穫できないんです。
夕方どりが美味しい葉菜類は、冬には夕方にしか収穫できない。
無理をしなければ、当たり前のように美味しい時間帯に収穫することになるんです。
じゃあ春や秋はどうでしょうか。
春や秋に育つ野菜たちは、冬と同様に葉菜類が多いです。
ということは夕方に採ったほうが美味しいのでしょうか。
じつはちょっと違います。
春や秋は、冬に比べればずいぶんと暖かいです。
夜間にしたって10℃以上あったりしますよね。
そんな気温の中で、夕方に収穫をしてしまったら、採ったあとの野菜はどんどん鮮度が落ちていくことになります。
気温の高さは野菜の生長を促して鮮度低下につながりますから。
鮮度の落ちを防ぐという点でみれば、気温がまだまだ高い春や秋は朝収穫がいいと思います。
新鮮さが味に与える影響の大きさを考えたら、収穫から店先に並ぶ時間は短いほうがいい。
気温が高い季節だからこそ、収穫してからの時間が重要です。
というわけで、春秋の野菜は朝どりがいい。
無理をしないという見方をするなら、畑に霜が降りているかどうか、野菜が凍っていなくて朝に収穫ができるかどうか、冬から春の境目、秋から冬への境目が切り替えのカギになります。
まとめ
美味しい状態でお届けするためには、
収穫したあとの鮮度をいかに保つのか。
植物生理からみて美味しいのは朝なのか夕方なのか。
という2点を気にしながら収穫時間帯を決めると、野菜の美味しさはさらに際立つという話をしてきました。
といっても難しく考える必要はないんです。
11月くらいから翌4月くらいまでの寒い季節は夕方に収穫する。
それ以外の暖かい季節は朝に収穫する。
これだけのことです。
そして。
旬の栽培を心がけながら多くの種類の野菜を育てている、いわゆる多品目栽培農家というのは、上記のような収穫を図らずも当たり前のようにやっているんです。
寒い季節は朝に収穫ができないから出荷する前日の夕方に収穫をしておく。
当日収穫ですみません、とか言いながらやっていたことが、じつは理にかなっていたんです。
個人の農家から直送される野菜セット。
いろんな意味で美味しさが追求されています。