畑で使われている黒いビニールの正体 野菜の旬を広げる

黒マルチ
農村地帯を車で走ったり、自転車で走ったりしたとき、一面キャベツ畑だったり地平線の彼方まで玉ねぎ畑が広がっていたりしますよね。
そこでは、野菜の下に黒いビニールが敷かれていたりしませんか?
もしくは、真冬であれば透明なビニールがトンネルのように張られていませんか?
あれってなんのために使用されているのか、考えたことがあるでしょうか。
ごく簡単にいえばその目的は
太陽熱を受けやすくして温度を上げ、野菜の育ちを良くする
光を通さない黒色を使うことで草が生えないようにする

という2点です。

石油から作られるビニール素材を使うなんて環境に優しい有機農業じゃない。
無理やり温度を上昇させて野菜が季節とずれた育ち方をしたら、旬の野菜じゃなくなってしまう。

と思われる方もいらっしゃるでしょう。
今回はこのビニール資材について、たんに野菜の育ちがよくなるという表面的な効果じゃなくて、もっと深いところにある本当の目的について書いていきます。
(草が生えなくなる効果について今回は触れません。)
読んでいただければ、ビニール資材を使って育てられた野菜をいとおしく感じられるようになるかもしれません。

季節をずらすことの意味

黒いビニールを地面に敷くとどのような効果があるのか。
というと、期待できるのは単純に光を通さないという効果です。
黒色は、光を吸収するという性質があります。
日傘って黒のものが多いですよね。
あれは光(紫外線)を通さないから黒にしているわけです。
植物が発芽するためにある程度の光を必要とすることが多いため、草が生えなくなる効果は、この光を通さない性質を利用しています。
もうひとつの効果は、黒を敷くことで土が暖まるということ。
黒は赤外線を吸収します。
それは熱を吸収するということでもあります。
だから黒いビニールを地面に敷いておくと、土の温度がむきだしのときよりも高くなります。

土が暖まるとどうなるのかといえば、一般的には野菜の生育はよくなります。
真夏にビニールを張っても暑すぎて効果はありませんが、冷え込みが厳しい季節に黒いビニールを張っているときの土の暖かさといったら、それはもう快適そのものです。
そこで育つ野菜は季節がすこしずれたように感じることでしょうね。

温度上昇効果について簡潔にまとめると。
初春を晩春に、初夏を盛夏に、晩秋を初秋に、厳冬を暖冬にするのが黒いビニールの役割だといえます。

さてここで。
そうやって季節感をずらすことが本当に野菜にとっていいことなのか、という疑問が湧いてきます。
そのときの気候に合わせて野菜を育てることが旬であり、元気にたくましく育てることになるんじゃないか。
無理やり温度を上げて野菜を育てることで軟弱に育たないのか。
という疑問です。
このことを考えるときに欠かせないのが、野菜にとっての旬とはなにか、をはっきりさせること。
野菜の旬をしっかりととらえる必要があります。
これについては先日の記事で書きました。
旬の野菜を食べなさい!の本当の理由
もし読んでいなければリンクを辿って読んでから戻ってきてほしいのですが、簡単にいえば
野菜にとっての原産地の気候にあわせて、快適である旬に育てることが、元気に健康に育つことになり、結果として栄養価が高くなり美味しくなる。
ということです。

つまり、野菜にとっての旬は原産地の気候で育つこと、と表現できます。

野菜にとっての旬

たとえば。
小松菜
春に育てている小松菜。
小松菜が快適に育つ、いわゆる生育適温はだいたい15~20度くらいだと言われています。
これよりも温度が低ければ育ち方はゆっくりと鈍くなるし、温度が高すぎてもやっぱり鈍く育っていきます。
平均気温が20度というと愛知県豊田市で5月中旬くらいから6月中旬にかけての1ヶ月程度。
小松菜にとって、この1ヶ月が原産地の気候に近い快適に生育できる環境だということになります。
ということは、旬をちゃんと守って小松菜を春に育てようと思ったら、この1ヶ月にしっかりと生育期間を合わせていくことが必要になります。
たとえば4月中旬くらいにタネを播いて、6月中旬に収穫をするというような育て方です。
(念のため書いておくと、6月中旬の日本の多湿な気候では虫の発生が多くて小松菜を育てるのはちょっと難しいです。)

でもここで問題が。
原産地の気候を意識しながら旬を追求していくと、ひとつひとつの旬は非常に短いものになります。
さきほどの例でいえば、春の小松菜は6月中旬くらいのせいぜい2週間くらいしか食べられないことになってしまいます。
一年のうちで6月中旬と10月上旬の2回しか食べられない。
そんなさみしいことになってしまいます。
これを他の野菜にもあてはめて旬にこだわった食生活をしていくと、食卓に上がってくる野菜の種類は毎回少なくなってしまうことでしょうね。
旬のものしか食べない、というこだわりは食生活を貧相なものにしてしまいます。

考え方と資材利用

これを解決するには2つの方法があります。
ひとつは考え方を変えること。
ちょっと旬がずれていていもいいじゃないか、とゆるくとらえること。
4月中旬くらいにタネを播いて、6月中旬に収穫をするのが小松菜にとって育ちやすいとして。
4月上旬にタネを播いて、6月上旬に収穫するものがあってもいいじゃないですか。
3月下旬にタネを播いて、5月下旬に収穫するものがあってもいいじゃないですか。
そうすることで収穫する期間が長くなります。
食卓にあがってくる期間が長くなります。
本当に美味しいのは6月中旬のものだと意識したうえで、5月下旬のものもまあまあ美味しいぞ、という考え方をもつ。
旬のピーク前後も、準ピークくらいのつもりで受け入れる。
考え方を変えることで食生活が豊かになります。

もうひとつの解決策は、資材を利用すること。
まだちょっと寒いかなという時期に黒いビニールを敷いておいて、そこにタネを播く。
透明のビニールトンネルをかけて、寒い時期の気候をすこし暖かいほうへもっていく。
といった保温資材を使って季節をずらすという方法があります。
原産地の気候が快適で育ちやすいのであれば、なんらかの資材を使ってその気候になるべく近づけるように環境を整えていく。
育ちやすい環境が長くなることで、収穫できる期間も長くなります。
ということは食卓にあがってくる旬の野菜が増えます。
黒いビニールや透明なビニールトンネルは、このような意図で使用されています。

自分がやってるんだから許してあげてね

それでもまだなんとなく石油由来の資材を使って育てられることに抵抗がある方へ。
こういうことは人に例えると分かりやすいです。
あなたは服を着ていますよね。
おしゃれだとか動きやすいとか、ファッションや機能性は今回おいておくとして。
季節にあわせて着るものを変えていますよね。
寒ければたくさん暖かいものを着込むし、暑ければ生地が薄く露出のあるものを着る。
そうやって変化する気候に対応しているはずです。
こたつ
また、ほとんどのご家庭では暖房器具を使っています。
寒いときに部屋を暖めるためです。
これは。
そこに暮らす人が快適に過ごせるように、服や暖房によって気候を変えているということです。
寒すぎて体温が下がれば、免疫力も低下して病気にかかりやすくなります。
人間にとって寒くてよいことはあまりないので、服や暖房で体温を維持しようとします。

野菜がこれをやっちゃだめですか?
風邪をひかないように暖めてあげることはそんなにいけないことですか?
ビニールハウスで暖房をつけて冬にトマトを育てる、なんていう季節無視の栽培はどうかと思いますが、
初春を晩春に、初夏を盛夏に、晩秋を初秋に、厳冬を暖冬にするビニール資材
の利用くらいは野菜にとって悪いことではないと思うのですが。

野菜だって大変なんですよ。
気候が合わない日本でタネをまかれて育てられて、快適な気候はほんのすこし。
その快適な期間を少しでも伸ばすために、苦しい期間を少しでも和らげるために、資材を使うんです。
いろんな野菜をいつでも食べたい、という人間のエゴがそうさせているところもありますが、季節感をまったく無視した行きすぎた資材利用でなければ野菜にとっても悪いことではありません。

野菜にとって快適な気候はそれぞれ違うし、日本の気候が合っているわけでもない。
強くたくましく育てようと考えても、原産地との気候の差が野菜にとって過酷になってしまうことがあります。
そんなときに気候の差を埋める役割をするのが、ビニールを使った栽培。
というふうに考えてみてください。
野菜のための資材だと思ってみると、畑に敷かれている無機質なビニールに対してすこし見方が変わってくるはずです。

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