自然分娩と有機野菜を育てることの共通点

食の安全に興味がある方は、自分自身の健康をしっかりと考えておられますし、子どもがいれば子どもの健康についてもちゃんと気を遣っておられます。
そして、まだ子どもがいない、これから産まれる予定です、という方が食の安全に興味を持っている場合には
自然なお産がしたい
自然分娩で産みたい
と考えている方がけっこう多いように感じます。
食の安全と出産・健康は切り離せない密接な関係にありますから。

そして、食の安全に興味のある農業者は
有機栽培で野菜を育てたい
農薬や化学肥料を使わないで安全な食を提供したい
と考えている人がけっこう多いです。

お母さんのおなかから赤ちゃんが産まれるときの流れ
土に埋められた野菜のタネが、地表から顔を出してくるときの流れ
ここには共通するものがあります。
食の安全に関わる、子どもを健康に産み育てたいという願いに関わる、共通点があります。
今回はそのような話です。
ぜひ最後までご覧ください。

 

自然分娩とはなにか

妊婦
一般的には、自然の流れに逆らわず行うお産、つまり経膣分娩を「自然分娩」と総称して使われています。
帝王切開による分娩とは違う分娩方法という意味でとられることが多いです。
定義があいまいなため、促進剤や吸引などの処置をしても産道を通ってきた場合には自然分娩とすることが一般的(普通分娩と呼んだりもする)ですが、食の安全や健康を気にしている方たちのなかでは
助産院などで医療介助をなるべく行わないでする分娩
を自然分娩と呼んでいたりします。

ここでは、そのような医療介助を控えたお産方法を自然分娩と呼ぶことにします。

自然分娩にはどのようなメリットがあるでしょうか。
まず大きいのは、母親と子どもが持っている力を信じてお産が行われるため、主体的かつ積極的な気持ちで臨めることが挙げられます。
痛みに耐えて出産することをデメリットだという方もいらっしゃいますが、痛みを乗り越えて産んだという気持ちがその後の子育てに影響することは否定できません。
帝王切開に比べると産後の回復が早いという特徴もありますが、身体面よりも精神面にプラスに働くことのメリットが大きいように感じます。
カンガルーケアがどうとか母乳育児がどうとか、産まれたあとの育て方についても色々と考えることはありますが、出産という行為そのものについては自然分娩は心に大きく作用するものだと言えるかもしれません。

そして、自然分娩を希望するためには健康で体力がなければいけません。
食生活の乱れや運動不足など、健康面に不安があるときには医療介入が避けられないこともありますから、自然なお産を希望するときには健康管理には気をつける必要があります。
この場合、自然分娩がしたいから食生活に気をつける、食の安全を気にする、という流れになっていますがおそらくは逆のほうが多くて、

食生活や食の安全に気をつけているからこそ、自然に産みたい

という気持ちになるんだと思います。
産まれてくる子どものために、母体である自分の体調を管理して、食べるものに気を遣って、自然に元気に健康に産まれてくるように手を尽くすのが母親という人種です。

 

畑の野菜との共通点

野菜の一生にも出産のような場面があります。
発芽
土のなかに埋められたタネが、土の深いところに根を伸ばしていって、準備が整ったところで頭に載っている土を押しのけて地表から顔を出す。
顔を出したこの瞬間、これが発芽であり出産です。
ここでは
母 = 土
子 = タネ
という関連性があります。
母親が自分の体調を管理して、食べるものに気を遣って、自然に元気に健康に産まれてくるように手を尽くすように、発芽してくる野菜が元気に健康に育ってくれることを願って土の環境をよくしようとするのが農業者の役割です。
お腹のなかで大きくなっていく赤ちゃんが健康であるためには母体である母親の健康管理が大事なように、野菜が素直にたくましく根を伸ばして土から顔を出すためには母体である土の健康状態が重要なんです。
そして、その土の健康管理に気を遣っている農業者は、有機栽培をしている場合にとくに多く見られます。
有機農業は、野菜が自分でたくましく育つために人が最低限なにを手助けするべきかを考える農業ですから、必然的に土がどういう状態にあるのかに気を留めます。
母体である土を健康にするために気をもみます。
帝王切開や促進剤、吸引といったような医療介助は、野菜の生育を助けてくれる農薬や化学肥料みたいなものです。
うまく使えば非常に有効だとは思いますが、使わなくても健康に産まれてきて健康に育ってくれるように手を尽くすことが農業者の本来の役目なんです。

 

過栄養はよくない

妊娠中、あまり太らないようにと医者に口をすっぱくして言われたことはありませんか?
安産のためにはあまり体重を増やしすぎてはいけないと。
これには、単純に産道が狭くなるから出産が大変だとか赤ちゃんが大きくなりすぎて出にくくなるからとか、高血圧症や糖尿病などのリスクが高まるから、とかいった理由があります。
じつは。
野菜のタネって、発芽するときには栄養がないほうがいいんです。
タネの周りに栄養になるものがないほうが、ちゃんと発芽してくれます。
栄養がない環境でタネを播いたらほぼ100%発芽するのに、栄養がたっぷりある土にタネを播いたらほとんど発芽しなかった、ということがふつうにあります。
なんとなく、妊娠中に太っちゃダメと言っているのと、タネの周りに栄養があったらダメと言っているのと、似ていると思いませんか?
野菜を育てていて感じることを子育てに活かせるときもあれば、子育てをしていて野菜の栽培に活かせるときもある。
そんなことをよく感じます。

タネが育つための環境を整える

妊娠中の方が健康に気をつけるのと同じように、畑にタネを播くときは土の健康に気をつけています。
土を触ったときの感触、匂い、柔らかさ。
化学的な成分を分析して、野菜にとって快適な環境になるようにバランスを整える農家もいます。
そこで野菜が元気に育つことを願いながら、土の健康を考えます。
人間の場合、出産してしまえば赤ちゃんといえどもへその緒を切られたときから独立した一人の人間になります。
ところが野菜の場合は違います。
タネが播かれたその環境で、根を張り葉を茂らせて一生を過ごします。
母体である土に根を張り巡らせて、大きく生長していきます。
その場所からは離れられません。
だからこそ、環境は非常に大事なんです。
栽培がうまくいくかどうかの半分以上は、タネを播いた時点で決まっています。
健康に育つかどうかの成否は土がしっかりとした環境であるかにかかっています。

 

まとめると。
母=土、子=タネという関連性があり、子が健康に育つためには母の健康状態が重要だという点については共通点が見られる。
けれども、人間の場合は出産してから母と子が別々の個体なのに対して、野菜は発芽してからもずっと母体である土に依存する形で生き続ける。
という違いがあります。
これが人間と野菜との違いであり、動物と植物との違いであり、母親と土との違いです。
もちろん農家はこんなことを考えて野菜を育てているわけではありません。
ほぼ無意識です。
無意識ですが、潜在的に子育ての経験を畑で野菜を育てるときに活かしている気がします。
生き物を育てる、という点では共通していますから。

陣痛で痛みをこらえているとき、
「あー、農家さんも苦しい思いをしながら野菜をそだててるんだなぁ」
と若干飛躍気味に想いを巡らせていただければ幸いです。

 

 

関連記事