自分が育てた野菜を食べない農家
自家用と出荷用
なんのことだか分りますか?
野菜や米を生産している農家が、これは自家用これは出荷用と分けて栽培をしているという話です。
出荷用にどーんと大量に育てているものとは別に、自分たちが食べる用にも同じものを育てている。
といった話が耳に入ってくることがあります。
どーんと大量に育てている出荷用野菜を食べたらいいじゃないか。
わざわざ自家用に育てるなんて面倒なことをしなくてもいいじゃないか。
と思うのはふつうの感覚。
なんでそんな面倒なことをするのかといえば
出荷用はお客様のものだから自分たちが食べるなんてとんでもない!
という理由ではありません。
農薬をかけすぎてて自分が食べるのはちょっと怖い。
安全だと分かっていてもなんとなくいやだ。
というのが(直接聞いたことはありませんが)自家用と出荷用に分ける真相です。
お客様の要望に応えているだけ
なぜこんなことをするんでしょうか。
自分たちが食べたいと思うような出荷用の農産物を育てようとは思わないんでしょうか。
これについては前回の記事
農家直送によって得られる安心に隠された秘密
と関係があるんですが、簡単に言ってしまえば
食べてくれる人が見えていないから
というのが結論になります。
生産者と消費者がつながる。
生産者から直接農産物を購入するとき、農家にとってのお客様は当然ですが農産物を買ってくれる人です。
食べてくれる人がお客様になります。
ところが。
(画像参照:東京中央卸売市場)
農家が農協へ出荷する。
スーパーなどの小売店に卸す。
というふうに食べてくれる人ではなく、仲介してくれる業者が間に入ってくると、農家にとってのお客様は農協やスーパーになるんです。
農協から流れて最終的には食べてくれる人のところへ届くとしても、スーパーで売られているその農産物を手にとった人が食べてくれるとしても、その食べてくれる人がお客様ではありません。
農家にとっては農協やスーパーがお客様になります。
だから。
農家は、お客様の要望に応えようとします。
お客様の希望を満たすように必死に努力をします。
見た目をよくしよう。
虫食いのないきれいな野菜を育てよう。
大きさや形が揃っている規格内のものを育てよう。
というように買う側の要望に応えるためにがんばります。
その結果なにが起きるかというと。
虫食いがないように栽培するために農薬をたくさん使おう。
大きさや形が揃いやすいように、味じゃなくて見た目を重視した品種を選ぼう。
といった希望を満たすための栽培をするようになっていきます。
農家は、お客様である農協やスーパーの希望を叶えるために栽培しています。
それ自体には間違ったことは一切ありません。
お客様のニーズに応えているんですから。
ただ、希望を叶えようとすると自分が食べたいものではなく、出荷するための商品作物ができてしまうんです。
それだけのこと。
別の表現をすれば、スーパーに「こういう野菜が欲しいんだよね」という消費者の要望が届くから、スーパーはその要望を満たすために生産者へ希望を伝えているということになります。
虫食いなく見た目がいい、大きさや形が揃った野菜が欲しい。
そう思う消費者がたくさんいるから、中間業者や生産者はそれに応えているだけ。
と言えます。
農家が、自分たちが食べたいと思わないような農産物を育てて出荷してしまうのは、極端なことを言ってしまえば消費者がそれを望んでいるから、とも言えるわけです。
買い物は投票である、を実感する
求める要望が変わると、農家の行動も変わります。
そのいい例が有機農家です。
有機野菜を求めている人たちが望んでいること。
安全性。
透明性。
美味しさ。
安全性を第一に考えている人が多いから、見た目よりも安全性を気にしているからこそ、有機農家はそれに応えるためにがんばっています。
安全を第一に考えているから、危険である可能性を持つ農薬を使わず、美味しくなるための品種選びや栽培管理など、食べてくれる人のために努力を重ねています。
それは、食べてくれる人たちがそのように希望しているからです。
消費者側の行動が、生産者に伝わっているよい例だと言えます。
結果的に、有機農家は出荷用と自家用なんて分けずに自分たちが育てたものを食べるようになるんです。
ということは。
スーパーに売られている野菜であっても、見た目で選ばないように安全性や美味しさを求める人が増えてくると、スーパー側がそれに応えるように生産者に希望を伝えるはずです。
実際は流通が複雑なためそんなに簡単なことではありませんが、端的にいえばそういうことです。
買い物は投票である。
という言葉はよく聞きますが、自分がどんな商品を手にとって買っているのか、自分がこれを買うことによって生産者に何を伝えたいのか、いろんなことが買い物という行動には含まれます。
ぜひ。
野菜に限らずスーパーで買い物をするときには、その奥にある生産現場を思い浮かべてみてはいかがでしょうか。