春の野菜はなぜまずいのか
春の大根と夏の大根。
秋の大根と冬の大根。
みんな同じ味だと思われますか?
野菜の美味しさは季節によって変わります。
これは断言できます。
すべてを旬に合わせて美味しくなるように育てたとしても、同じ味になることはありません。
なぜか?と考えてみれば。
それは単純に気候が違うから、という当たり前の答えに辿りつきます。
ものすごく分かりやすい例を挙げると、夏のホウレンソウと冬のホウレンソウの味の違いは明確に違います。
夏のホウレンソウは、苦味やエグミが強くて食べられたもんじゃありません。
でも、冬のホウレンソウは絶品です。
噛むと口のなかに甘みが広がっていきます。
本当に寒い季節に育てられたホウレンソウは、果物かと思うくらい甘くなるんです。
ほかの野菜にも同様のことは起こります。
ホウレンソウほどあからさまじゃないだけ。
冬に野菜が美味しくなることについては、過去の記事で詳しく書いていますのでそちらをご覧ください。
食べる旬と育てる旬は違う 野菜が美味しくなる季節は冬
今回はこれに関連して。
春の野菜はまずい!
ということについて詳しく説明していきます。
最後まで読んでいただければ、春の野菜がまずい理由を知ったうえで納得して召し上がっていただけるようになります。
ぜひご覧ください。
冬から春へのギャップが美味しさに影響する
一年を通して食卓に並ぶ野菜を考えてみてほしいのですが、トマト・ナス・ピーマンなどのいわゆる夏野菜が採れる季節をのぞけば、春秋冬はだいたい同じような野菜が採れます。
とくに、気候が似ている春と秋は育ちやすい野菜も同じようなものになります。
夏が過ぎて秋になり、秋野菜が採れるようになる。
そのうちどんどん寒くなってきて、厳しい寒さに耐えられる野菜だけが冬の野菜として残っていく。
秋から冬への野菜の移り変わりは、野菜の種類がどんどん変わっていくというよりは寒さに耐えられる野菜だけが残るという感じです。
そして。
春を迎えます。
寒さがゆるんでくるので秋から冬にかけて育てられていた野菜を、同じようにタネを播いてどんどん育てられるようになります。
収穫できる野菜、食卓に上がってくる野菜は秋に食べていたものとそれほど変わりません。
冬に食べていた野菜とも、それほど大きく変わりません。
春だからこそ食べられるエンドウ、ソラマメなどはありますが。
そういった季節の移り変わりを体で感じながら春を迎える。
そして春野菜を食べるとどうなるか。
冬野菜に慣れている舌は、
なんだこれ?
野菜がおいしくない!
と反応してしまうんです。
冬野菜がなぜ美味しいのかについては、以前の記事に書きました。
冬の寒さに耐えるため、野菜自身が体内で糖をつくりだすため甘くなるのが大きな理由です。
そういう甘くて美味しい冬野菜を食べてきて春を迎えたとき、それほど寒くない環境で育てられた野菜を食べると
あれ?
冬野菜ほどの美味しさはないぞ。
となるわけです。
ようするに。
実際に春野菜がまずいわけじゃないんです。
冬野菜にくらべて相対的にみてまずい。
というだけの話なんです。
冬野菜が美味しいからこそ、春の野菜がまずく感じてしまうというわけですね。
でもまずいことに意味がある
(画像参照:ジャパンフードとあいちの伝統野菜)
春は山菜の季節ですよね。
つくし、ふきのとう、たけのこ、わらび、ぜんまい・・・。
春の暖かさで動き出した野生の植物を、日本人はありがたく食べてきました。
農耕が発達して食べ物に困らない日本ですが、いまでも山菜はありがたく食べられています。
そこには単純に。
食料がなかった冬からようやく抜け出して、自然の植物を頂けるようになったという昔の事情があると思います。
ですが。
山菜がもっている特有の苦味は、春に緩んだからだを締めるという効果をもたらしてくれるんです。
よく言われるのが胃腸の働きを促進するという効果。
精神的ストレスの改善にも効果があるとの研究結果もあります。
なにか特定の栄養成分が入っているから●●の効果がある!という評価基準はあまり好きではありませんが、苦いという特徴をもつことで体にたいして何らかの影響を及ぼすことはあえりる話だと思います。
冬が終わって春が来た、それを体に知らせるスイッチのような役割をもっている気がしませんか?
このような理由を春野菜にも当てはめるなら。
ちょっと美味しくないぞ、と感じる春の野菜には春を知らせる効果があるということになります。
春の野菜が美味しくないもうひとつの理由
さて。
春の野菜が美味しくないのは、冬野菜のように寒さに耐えていないからだという理由をここまで書いてきました。
じつは、もうひとつ。
春の野菜が美味しくない理由があるんです。
それは、品種で美味しさを追求できないから。
寒さに耐えた野菜は、春になって暖かさを感じると子孫を残すために抽台(ちゅうだい)という行動をとる。
ということについて以前の記事で書きました。
このことが大きく関係しています。
抽台するということは、野菜が野菜でなくなってしまうということ。
それを出荷するつもりで育てている農家にとっては、抽台してしまうことは大きな痛手になります。
農家としてはできる限り避けたい事態です。
だから。
抽台が遅い品種を選びます。
トウが立って花を咲かせようとする行動、この反応が遅い品種を選ぶんです。
ちょっと難しい話になってしまいますが。
たとえばキャベツや白菜、水菜や小松菜などのアブラナ科野菜は
10℃以下の低温に積算で700時間あたると抽台フラグが立つ。
その状態で気温20℃を超える日があると抽台が始まる。
といった動きをみせます。
もし仮に、一日中10℃以下の日が30日続いたとすると、
24時間 × 30日 = 720時間
になり、低温積算時間は700時間を超えます。
すると抽台フラグが立つ。
この状態で春を迎えると、気温が20度を超えたときに抽台が始まるんです。
ここで。
抽台が遅い品種を選ぶとどうなるかというと。
たとえば10℃以下の低温に積算で1500時間あたると抽台フラグが立つ。
という品種があったとして。
一日中10℃以下の日が60日続いたとしても、
24時間 × 60日 = 1440時間
という積算結果なので、抽台フラグが立ちません。
だから春になって20度を超える日があったとしても、トウ立ちして花を咲かせることがないんです。
つまり抽台しない。
野菜を野菜として出荷できるということです。
野菜農家にとって、春の抽台を避けるために適切な品種を選ぶというのは当たり前に行われていることなんです。
さてここで。
なんでこれが野菜の美味しさと関係があるのか疑問をもたれたと思います。
ただ抽台の遅い品種を選んだだけじゃないかと。
品種というのは、いろんな目的で作られています。
病気に強い品種。
生長がすごく早い品種。
形や大きさがそろいやすい品種。
暑さに強い、もしくは寒さに強い品種。
そして抽台が遅い品種。
そんななかに
とにかく美味しい品種
という目的をもってつくられている品種があるんです。
抽台が遅い品種を選ぶということは、品種改良でそれを最重要視されている品種を選ぶということ。
美味しさを追求した品種を選べないということです。
抽台を気にするあまり、美味しさがおろそかになってしまった品種を選ばざるをえないという事情があるんです。
野菜の美味しさを決める要素として
品種
は重要な要素です。
その品種で美味しさを追求できないからこそ、春の野菜は美味しくない。
という見方もできるわけですね。
まとめ
春の野菜が美味しくないのは
・美味しい冬野菜とのギャップが激しすぎるから相対的にまずく感じてしまう
・抽台を気にするあまり美味しさを追求した品種を選べない
この2点が理由になっています。
でも。
春の山菜によって体を引き締めることができるのと同様に、春の野菜によって同じ効果をもたらしてくれるなら、あえて味のギャップを楽しむことができる。
という見方もあります。
春の野菜がいまいち美味しくないことは、
野菜は季節によって美味しさが変わる。
ということを教えてくれる貴重な体験教材なのかもしれませんよ。