野菜の規格 キュウリはなぜあの大きさなのか
スーパーに並んでいる野菜を想像してください。
キュウリはなぜあの大きさなんでしょうか。
大根はなぜ首のあたりが緑っぽくなっているんでしょうか。
ズッキーニはなぜあのサイズで売られているんでしょうか。
絹さやエンドウはなぜペラペラなんでしょうか。
考えたことがありますか?
おそらくほとんどの方は、スーパーで売られている野菜の姿について疑問を持つことはないと思います。
野菜ってそういうものだ、と思っているはずです。
でも。
当たり前ですが野菜は植物です。
生長する生き物なんです。
種が発芽して、双葉を出し本葉を出し、葉を茂らせて花を咲かせる。
実をつける、実が太る。
タネという子孫を残すまでは生長し続けるんです。
その生長過程のなかで、人間が食べたいと思う部位を、収穫したいタイミングで収穫している。
それが野菜なんです。
そんな生長し続ける野菜を、常に均一なサイズで収穫して、みなさんに野菜とはこういうものだと思わせてしまうのはなぜか。
そこにはいろいろな思惑があります。
なぜキュウリはあの大きさなのか
キュウリを例にしてみましょう。
スーパーで売られているようなキュウリのサイズは、
だいたい重さで80~120g、長さ20cm前後くらいです。
なぜこのような大きさが好まれるのでしょうか。
まず、あのサイズよりも大きかった場合。
中にあるタネが食べて気になるくらいに大きくなってしまうため、スライスして生食でそのままいただくか塩漬け等の簡単な調理をするか、日本の食卓を考えると食べたときにタネが口に残るのはキュウリにとってマイナスなんです。
だからあのサイズ。
実際はもうすこし大きくてもタネは気にならないんですが、確実にタネが気にならないサイズという意味ではあれくらいが流通するにはちょうどいいです。
逆に。
あれより小さいのはどうかといえば。
食べることを考えたら問題ありません。
すこし青臭さは強くなるかもしれませんが、柔らかくてまた違った美味しさがあります。一口キュウリなんて食べやすくていいですよ。
でも。
生産者の都合で、花が咲いてぶら下がった果実はできるだけ大きくして収穫した方が収穫量(重量)が増えるから、小さいサイズは避けられることが多いです。
仮に中指くらいのサイズでキュウリが流通したとすると、収穫するのは大変だしひとつの樹から採れる数ってそれほど変わらないので、一本あたりの価格が変わらずボリュームが減ってしまうことになります。
生産者にとっても、消費者にとっても小さすぎるキュウリはあまり喜ばれません。
つまり。
種が気になるサイズの一歩手前が、食べる人にとっても育てる人にとっても得をするサイズってことです。
でも。
これは日本での話。
海外で売られているキュウリはもっと大きくて太いです。
切ると中には種がしっかりできていたりします。
これにはもちろん理由があって、かぼちゃのように種をほじって取り除いてから食べるので食感は問題ないんです。
そして火を通すような調理をする。
炒めたり煮込んだりするから、タネができていて完熟に向かっている、ちょっと味わいが出てきているキュウリのほうが合ってるんです。
食べ方によってサイズが変わるという例ですが、いずれにしても食べる人や料理する人のことを考えたキュウリのサイズになっているのは間違いありません。
絹さやのペラペラ感
別の野菜でも見てみましょう。
春の代名詞、エンドウ。
エンドウは漢字で書くと豌豆だから、エンドウマメという言い方はちょっと間違っている、という話はさておき。
絹さやエンドウというペラペラのエンドウはご存じでしょうか。
炒め物、和え物、煮物、卵とじ、汁物などけっこう幅広く使える食材です。
この野菜は、おそらく食べたときの食感を楽しむものだと思うんです。
というのも絹さやエンドウは収穫しないでしばらく放っておくとスナップエンドウのように豆がぷっくりとふくれてくるんですが、豆がふくらんだくらいのほうが甘くて美味しいんです。
甘くて美味しいのに、なぜそのタイミングで収穫しないのか。
なぜペラペラの甘みがないうちに収穫してしまうのか。
その答えが、食感を楽しむため。
ということです。
甘みや美味しさを求めるなら、スナップエンドウを選べばいいんです。
絹さやの、あの食感が欲しいから絹さやを買うのではないでしょうか。
だから。
絹さやエンドウがなぜペラペラの状態で収穫されているのかというと、
ペラペラの食感がウケている。
スナップエンドウとの差別化。
といったことが理由だと思います。
ちゃんと理由があって、絹さやエンドウなんです。
規格は食べる人が決める
市場に流通している、スーパーで売られている野菜は、生産者も消費者も仲介者もみんなが満足できるように決められた規格で流通しています。
それは言ってしまえば平均値。
大多数の人が満足できるように決められている規格です。
日本ではほとんど流通していないド太いキュウリを食べたいと思っても、なかなか見つからないのは、そのド太いキュウリが平均値から大きく外れているから。
美味しさを追求した豆を太らせた絹さやエンドウが手に入らないのは、それが平均値から大きく外れているから。
ということです。
でも。
平均値から外れたところにおもしろさを感じる人もいます。
平均値が必ずしもベストだとは限りません。
例で取り上げたキュウリで言えば、一般的なサイズよりももう一回り大きいくらいのほうがほんのり甘みが出て美味しいし、タネも気になるほど出来ていません。
収穫量(重量)も大きくなるので生産者にとってもうれしいです。
消費者も生産者も喜ぶギリギリのラインは、80~120gの平均的なところではなく150gくらいのちょっと大きめのところにあったりします。
ギリギリなので大きな市場ではやりたがらない。
でも小さな農家、個人でやっているような小規模農家であれば、このギリギリを追求できます。
ド太いキュウリだって、お客様からの要望があればそのサイズで収穫することができます。
小さな農家だからこそできることです。
とにかく美味しさを求めるのか。
お得なサイズを求めるのか。
ド太いキュウリのように突き抜けた要求をするのか。
農家から直接買うことができるということは、そのような要望を通せる可能性を持っています。
そのような要望によって、その野菜の品質が決まるといってもいいかもしれません。
つまり、購買行動によって野菜の品質が決まるということです。
野菜をどういう状態で、どんなサイズで収穫するのがベストなのか、もっとも美味しくなるのはどういうタイミングなのかを知っている農家。
その農家に、自分がどのような野菜が食べたいのか、野菜になにを望むのかを直接伝えることができる消費者。
この両者がつながると、新しい規格が生まれる。
ということです。
農家から直接買うという楽しみをもっと感じてみてください。