自然栽培に学ぶ 野菜の味を決めるのは肥料の質ではなく量
奇跡のリンゴといえば「あーあの人ね」とすぐにわかるくらい、有名になった木村秋則氏。
その木村氏が提唱しているのが自然栽培という農法です。
自然栽培という言葉はおそらく木村氏が有名になる前からあった言葉ですが、木村氏があまりに有名になりすぎたので、
木村秋則の農法=自然栽培
になっているのが現状です。
では。
自然栽培とはどういうものか簡単にいえば
農薬を使わず、化学肥料ではなく有機肥料を使うのがいわゆる有機栽培。
これにたいして
農薬を使わず、肥料も使わないやり方
それを自然栽培と呼んでいます。
厳密には、単に農薬も肥料も使わなければ自然栽培!というものでもないのですが、定義がしっかりとある言葉ではないので、上記の表現でじゅうぶんだと思います。
肥料の量は味に影響する
自然栽培がいいと思っている人、自然栽培で作物を育てている農家がよく口にするのが
肥料は危ない
有機肥料でも化学肥料でも危ない
といった表現です。
化学肥料はもちろん有機肥料も危険だからといって、無肥料のよさを強く主張します。
野菜にとっては、肥料さえも毒になりうるし、自然に添って育てるのに肥料は必要がない。
肥料を入れることで腐りやすい野菜になってしまう。
肥料によって味が落ちる。
といった主張です。
野菜の栽培において、重要なポイントになるのが肥料なのは間違いありません。
肥料の加減がもっとも味に影響するといってもいいくらいです。
野菜が腐りやすいとか、味が落ちるとか、そういった意見は肥料が原因になっています。
ここで大事なことは、
肥料がだめなのは、科学的とか有機的とかそういう質の問題
ではなくて
与えすぎている、少なすぎる、という量が問題
だということです。
大事なのは量の加減であって、自然栽培のように全く与えないことじゃありません。
最初から無肥料だと決めてしまうと、野菜が健康に育つための選択肢をひとつ潰してしまうことになりかねません。
肥料は、多くても少なくても、だめなんです。
たとえば。
人間が健康であると思える食環境はどのようなものでしょうか?
手を伸ばせば届くところにたっぷりと食べ物があって、ろくに運動もしないで食べてばかりのぜいたくな食生活。
食べたいものを好きなだけ食べられる食環境。
制限なく偏った食事が健康にいいとは思えません。
逆に。
お腹が減ってるのに、食べたいときに食べられない。
必死に動き回って一生懸命探しても食べ物がない。
もしくはお金がないから食べることができない。
いわゆる飢餓状態。
これもよくありません。
適度な運動をして、栄養のあるバランスがとれた食事ができる。
人間が食べることから健康になるためには、このような生活が必要です。
これは野菜にとっても同じことが言えます。
根っこを伸ばしていった先に、ありあまるほどの豊富な栄養があったら。
野菜はそこで根っこを伸ばすことをやめて、どんどん栄養を吸収してしまいます。
運動もしないで食べてばかり、肥満という状態です。
逆に、根っこを伸ばしても伸ばしても栄養が見つからない。
吸収できる栄養が野菜のまわりにまったく見つからない。
というのは無肥料での栽培をしたときにありがちな状況です。
飢餓状態。
どちらも決してよい状態ではありません。
野菜がスムーズに根っこを伸ばせるように、そして伸ばした先に適切な栄養分があること。
野菜が健康的に生長していけるための環境を整えてあげることがなによりも大切です。
自然栽培では始めから無肥料だと決めつけていますが。
自然栽培で肥料を与えないで育てることが、自然に近づけて野菜はたくましく育って美味しくなるんだと言っていますが・・・。
たくましく育つための環境を用意してあげることが大事であって、環境を整えないでなにがなんでも無肥料だと決めてしまうのは野菜にはいいことではありません。
その土地に、その土に、栄養となるものが少ないのであれば肥料を入れてあげる必要があるかもしれませんし、土に力があって肥料を入れなくても充分に育つと思えるならそのままでもいいと思います。
肥料の質はあまり関係ない
化学肥料がだめで有機肥料がいい。
いやいや肥料そのものがだめなんだ。
という意見について。
これも人間の食生活を例にとるとわかりやすいです。
たとえば。
たんぱく質という栄養素を摂りたいと思ったとして。
そのたんぱく質をどんな食材から摂るのかを考えますよね。
大豆からたんぱく質を摂るのか。
牛肉からたんぱく質を摂るのか。
サプリメントで摂取するのか。
なにから摂るかの違いはあるけど、どれもたんぱく質を含んだ食材です。
違うのは、たんぱく質以外の成分をどれだけ持っているかです。
大豆を食べるときに、たんぱく質を摂っているつもりで食べていても、脂質や食物繊維も一緒に摂っていますしビタミン類、カリウム、鉄分、カルシウム、マグネシウムなどのミネラルも摂っているはずです。
牛肉を食べるのであれば、たんぱく質のほかに脂質や鉄分、亜鉛などを摂ることになるでしょう。
成分の違いはあるけど、どんな食べ物も大切なんです。
大豆はいいけど牛肉はダメってことはありません。
これを肥料の世界に置きかえるとどうなるか。
簡単にいえば、化学肥料は消化のよい食べ物、もしくは栄養素を特定抽出した食材です。
流動食や点滴、サプリメント
あたりが当てはまります。
有機肥料は普通の食べ物。
ふだん食生活で口にしている、ごく一般的な食材が肥料でいえば有機肥料になります。
そして。
自然栽培でいうところの無肥料は
食事を与えない、狩猟とか漁で自ら食べ物を確保しなさい。
と言っているようなものです。
どれがいいとかではありません。
流動食とか点滴とかは健康な人がふだんの生活で取り入れているものではありませんが、体調がすぐれない人や病気で入院している人にとっては必要なものです。
動植物が豊富な熱帯雨林のような環境で、サバイバルに充分な道具を持たされているなら食事を用意しないこともある意味ではよいことかもしれません。
でも。
普通に健康であれば、普通の食事でいいんです。
ようするに。
置かれている環境によって使い分けるべきだということです。
病気がち、つまり野菜が弱っているとか土に栄養がないときに
無肥料で栽培します!
と言っても野菜たちが困るだけです。
このときは化学肥料のように即効性があるもので助けてあげる必要があります。
土に栄養がしっかりあって、それをちょうどいい具合に吸収できる環境が整っているのであれば、わざわざ肥料をあげる必要はありません。
化学肥料なんていりませんし、有機肥料もいらないかもしれません。
野菜が育つための環境によって、化学肥料を選んだり有機肥料を選んだり、場合によっては肥料を与えないで育てたり。
本来であればそういった判断をすべきです。
野菜を育てるために、肥料の種類は関係ありません。
状況、環境をみて肥料を選ぶ。
これだけのことです。
自然栽培信者にまどわされるな
まとめると。
自然栽培だから美味しいとか、有機野菜だから美味しいとか、そういうことじゃなくて
味を決めるのは肥料の種類ではなく量。
環境にあわせて適切な量、適切な肥料を与えられるか。
だということを理解してください。
肥料は毒だ!
無肥料こそ素晴らしい!
と主張する自然栽培信者にあまり振り回されないようにしてください。