地産地消とフードマイレージの密接な関係
できることなら地元でとれた野菜を買いたい。
そのほうが新鮮だからという理由もあるでしょうけど、環境のことを考えたら近いところで採れたものを食べたほうがいいだろうし、身体にとってもそのほうがいい。
そのように考える人は少なくないと思います。
また。
地域でお金を回したい、と考える人もいらっしゃると思います。
じゃあ、地元とは自宅から半径何kmくらいの距離を指すのでしょうか。
遠くで採れたものを食べたら健康を害するのでしょうか。
遠いところから食べ物を運ぶことがなぜ環境負荷と関係するのでしょうか。
分かっているようでじつは知らない。
なんとなく地元産がいいと思っていたけど、ちゃんと考えてみたことがなかった。
そんな方へ、地産地消とフードマイレージについて分かりやすく解説していきます。
地産地消とは何か
おそらく多くの人が知っていると思われるのが
地産地消(ちさんちしょう)
という言葉。
少なくとも一度くらいは耳にしたことがあるのではないでしょうか。
漢字から想像すればその意味はかんたんに分かると思いますが、地元で生産されたものを地元で消費しましょうという言葉です。
この地産地消は、
その地域で育まれた旬の農林水産物を食べるのが健康によく、美味しい
という考え方が基本となっています。
つまり新鮮なうちに食べるほうが栄養価が高くて美味しいということです。
たしかに、野菜の美味しさを決める要素としてもっとも重要なのは
鮮度
です。
新鮮であればたとえ栽培がへたくそな農家が育てた野菜でも美味しい。
栽培の達人が育てた野菜でも鮮度が落ちてしまえば美味しくありません。
その意味では地域で採れたものを地元で消費するのは理にかなっています。
地産地消などという堅苦しい言葉を使うまでもなく、新鮮なものを新鮮なうちに食べるために地元で農産物を消費するというのは素晴らしいことだと思います。
交通インフラの発達で変わる世界
でも。
地元で生産して地元で消費することが、本当に新鮮さのアドバンテージになるんでしょうか。
自動車や鉄道、飛行機などの輸送機関が発達していなかったころは、地元で消費することに大きな意味があったかもしれません。
遠くまで運ぼうと思えばかなりの日数がかかりますから。
でも現代では輸送技術が大きく発達しています。
たとえば愛知県で野菜をつくっている私が、今日収穫したものを発送すると明日には東北地方や中国地方、四国地方まで届いてしまいます。
たった一日で何百キロも移動することができる、そういう輸送能力があるんです。
地元で消費すれば新鮮だなんて言える世の中ではないんですよ。
地産地消と似たものに身土不二という言葉がありますが、これは
人間が足で歩ける身近なところ(三里四方 、四里四方)で育ったものを食べ、生活するのがよい
とする考え方です。
三里~四里というと12~16kmほどの距離。
昔の人の行動範囲というのは、だいたい半径にしてこのくらいの距離だったんでしょう。
でも今は違います。
自転車もあれば自動車もある。
鉄道もあるし飛行機もある。
その気になればたった一日で何千キロも移動することだってできてしまいます。
そんな輸送技術があれば、野菜を新鮮なまま遠く離れたところまで運ぶのはさほど難しいことではありません。
だから。
地元で採れたものを地元で消費する、と言っている地域感覚が食べ物の鮮度保持と関係しているなら、現代では日本国内すべてが地元だと言っても差し支えないのかもしれませんよ。
この場合。
地産地消とは、日本国内で生産されたものを日本国内で消費すること。
ということになりますね。
フードマイレージとは何か
ただしここで懸念される材料があります。
環境への負荷です。
ヒトやモノを遠くに運ぶということは、その移動には大きなエネルギーが必要になります。
そのエネルギーは分かりやすくいえば化石燃料のこと。
化石燃料である石油からガソリンを取りだして、そのガソリンを燃やしてエネルギーに変えてトラックを動かす。
化石燃料である石油・石炭・天然ガスなどを使って電気を作り出し、その電気をエネルギーに変えて電車を動かす。
船だって飛行機だって同じです。
化石燃料を使って長距離輸送を実現しています。
そして。
遠くに移動すればするほど、必要なエネルギーは大きくなっていきます。
だからこそ。
なるべく移動を少なくして、エネルギー消費を減らそうという考えがあります。
食べ物についても輸送距離を短くすることで移動によるエネルギー消費を減らそう、これを分かりやすく数字で表して啓蒙しよう。
というのがフードマイレージの考え方です。
【フードマイレージ】
食料の輸送量と輸送距離を定量的に把握することを目的とした指標ないし考え方。
「食品の重量(トン)× 輸送距離(キロメートル)」
で表現されます。
ごく簡単に言ってしまえば、ブラジルで育てられた大根を日本まで運んできて1本100円でスーパーに並べたとして。
地元で育てられた大根も1本100円で隣に売られていたとしたら、そのふたつの大根は似て非なるものだということです。
たとえ輸送技術や保存技術が発達して鮮度の低下がなかったとしても、ブラジル大根の移動にかかっているエネルギーはそうとう大きなものです。
つまり環境への負荷が大きい。
そんな大根を日常的に食べていいんですか?という問いかけがフードマイレージにはあります。
また。
同じ100円でもその内訳はまったく違ったものになります。
地元で育てられた大根が、農家からスーパーへ直接卸されたものだとすると
農家70円 + スーパー30円 = 店頭価格100円
という内訳で100円という価値が分配されます。
でも。
ブラジルで育てられた大根が、地球の裏側から運ばれてきて日本のスーパーに並べられると
農家10円 + 流通業者60円 + スーパー30円 = 店頭価格100円
という分配になる可能性が高くなります。
輸送にエネルギーがかかればかかるほど、輸送を担う人たちにお金が回っていき、生産者である農家に入ってくるお金は少なくなります。
農家としてはもちろん悲しいことですし、大根を買う側にとっても生産者にお金が還元されないことは悲しいと思います。
フードマイレージという言葉を使うまでもなく、モノが遠くから運ばれてくるというのはあまり好ましいことではないと思います。
ということで。
農産物の鮮度や美味しさだけをみるなら、輸送技術が発達した現代では
地産地消はかなり範囲を広げて国内生産・国内消費
としてもいいんですが、フードマイレージを考慮するなら地産地消の範囲は狭ければ狭いほうがいいということになります。
地産地消をどのように考えるのかは自分次第
野菜の鮮度や美味しさという点からみれば、輸送技術・保存技術の発達によって地産地消の範囲は広がり、遠くから買えるようになった。
でも。
フードマイレージという点からみれば、環境負荷を考えていくと地産地消の範囲は狭ければ狭いほうがいい。
どちらを重視するのかは人それぞれです。
鮮度よく美味しく食べられるから国内産OKとするのか。
それとも地球環境のことを気にしながらなるべく近いところから買うのか。
その違いは何を重視するのか、だけです。
どちらを肯定するでもなく否定するでもなく、自分自身がどこにウエイトを置いて買い物をするのか。
心に問いかけてみるといいと思います。