有機栽培とはなにか 豊かな生態系を生み出す技

有機野菜が食べたい。
有機農産物を買いたい。
そう思っている人は世の中にはけっこういらっしゃいます。
価格面で折り合いがつくなら有機野菜がいい、という人はけっこういらっしゃいます。

でも。
そもそも有機野菜ってなに?
有機農業、有機栽培ってどんなもの?
というように、はっきりと定義がわからない人が大半ではないでしょうか。
農薬を使ってないから安全なんでしょ。
なんとなく印象がよさそうだから食べてみたい。
みたいな漠然としたイメージをお持ちではないかと思います。
おそらく。
世間的な有機農産物の認識はけっして高いものではありません。

でも。
それは購入するみなさんが悪いわけではありません。
売る側、作る側がしっかりと伝えることをしなかったせいです。
だからこそ。
今からでも遅くありませんので、有機野菜について正しく知ってほしいと思います。
小さな農家の意見であり認識ですので、すこし考え方が偏っているかもしれませんが、基本的なことは分かるはずです。
そもそも有機野菜ってなんなの?
有機農業ってどんな農業なの?
といった知識についてなるべくわかりやすく書いていきます。
ぜひ最後までご覧ください。

 

有機とはなにか

そもそも有機野菜の 有機 とはなんでしょうか。
有機という言葉は、かんたんに言ってしまえば命があるということです。
動植物由来のもの、ということです。

スーパーに売られているような野菜はほとんどが有機野菜ではありませんが、それらは有機野菜に対して無機野菜と呼ばれたりしません。
ふつうの野菜だって(当たり前ですが)命があります。

なにが違うのかといえば
使っている肥料、農薬が違う。
というのが答えです。

野菜が畑で育っていくときに必要な栄養、食事。
これを鉱物系資源から作られる無機質な化学肥料にするのか、それとも蓄糞や米ぬか油粕など生き物由来の有機肥料を使うのか。

野菜を外敵から守るために使われる農薬。
化学的に合成された無機質な農薬を使うのか、それとも自然界にある有機的な農薬を使うのか。
その違いによって有機と呼ぶかどうかを分けています。

野菜を育てるときに使うものが有機的であるかどうか。
ざっくり言ってしまえばこれが有機か無機かの違いになっています。

表面的にはこれくらいの理解でいいんですが、有機農業はそれほど単純ではありません。
じつはもっと深いところに有機栽培の本質があります。

 

社会を支える人口構造を考える

有機農業の奥深さを説明する前に、日本の社会保障の現状について少し話をさせてください。
日本には、高齢者の生活を支えるという目的で公的年金制度があります。
国民年金、厚生年金、共済年金といった年金制度のことです。
ほかにも福祉や医療など社会保障全般で若者が高齢者を支えるという構図があります。

働いている世代が、働いていない世代を支えていると言ったほうが分かりやすいかもしれませんね。
その構図が、戦後どんどん変わってきています。
あまり詳しいことは書きませんが、戦後から高度経済成長のころにはお年寄りよりも働き手の人口が圧倒的に多かった時代です。
多くの若者が、少ない高齢者を支えていました。
それが。
経済が発展して平均寿命が延び、出生数が減ったことによって、高齢者が増えて若者が減るという状況になってきました。
数少ない若者で、多くの高齢者を支えなければならなくなったんです。

年金制度
(画像参照:はじめて個人年金保険

多くの若者で少ない高齢者を支える1960年は、土台が大きく頭が小さいピラミッド型。
数少ない若者で多くの高齢者を支える2011年は、土台が小さく頭が大きいミニピラミッド型。
さらに年月が進めばおそらく土台よりも頭が大きくなる逆ピラミッド型、もしくは土台と頭が等しい箱型になっていく。
と言えます。

だから昔はよかったんだ!と短絡的に言うつもりはありません。
人口構成や社会保障の是非について議論するつもりはありません。
ここで言いたいのは
ピラミッド型のほうが安定しているよね。
ということ。
高齢者を支えるという点でいえば無理のない形です。
多くの若者で少ない高齢者を支えるというのは、無理なく続けられる理想形なんです。

ピラミッドと逆ピラミッド。
これは有機農業と慣行農業の違いでも見られます。

 

 

有機農業は生態系ピラミッドを畑のなかにつくっていく

田舎を車で走っているときに見える農村風景。
田んぼが広がっているそのなかに、一枚だけ有機栽培で育てられている田んぼがあったとしたら。
あなたはそれを発見することができるでしょうか。
合鴨を田んぼで飼って草を食べてもらっているような特殊な栽培をしているときには、田んぼの周りを柵で囲ったりしているので明らかですが、すべての有機栽培がそのように分かりやすいわけではありません。
むしろ普通の栽培とほとんど見た目には違いが分からない場合がほとんどです。

なぜかというと。
耕す、畝をたてる、種をまく、苗を植える、育っている作物を世話する、収穫する。
こういった一連の農作業は、有機栽培だろうが慣行栽培だろうが大きく変わらないからです。
栽培管理、という面ではどちらもほとんど同じです。
違うのは土の中。
米や野菜が育っている様子では分かりませんが、土中の様子はまったく間逆になっています。

 

ピラミッド有機

有機栽培は、生き物の多様性を大切にします。
たくさんの微生物が土のなかにいて、その微生物を食べる小動物がたくさんいて、その小動物を食べる虫などがいて、さらに虫などを食べる動物がいる。
そのような生き物が豊かに共存している畑をつくることで、そこに育つ野菜も強くたくましく健康に育つことができると考えています。
生態系ピラミッドが大きければ大きいほど、なにか特定の虫が大発生することがなくなり、野菜が虫に食べられてしまう被害を抑えられます。
とにかく土台を大きくしっかりさせることが、有機栽培のキモになっています。
ピラミッド慣行

一方、慣行栽培は極端にいえば畑の野菜だけを見ています。
土はあくまでも野菜が根っこを張るための場所にすぎません。
野菜に直接栄養を与え、病気が出れば薬で治す。
そこには生き物の多様性といった考え方はありません。
生態系ピラミッドは小さく、そして逆三角形になりがちです。

 

 

有機栽培は豊かな生態系を畑に作っていく

松本自然農園の畑

大きなピラミッドと小さな逆ピラミッド。
どちらがいいのかは、さきほど前置きをした日本の人口構造と比べるとはっきり見えてきます。
安定しているのはどちらか。
高齢者がゆとりをもって暮らせるのはどちらか。
若者の負担が少なくなるのはどちらか。
明らかに1960年のピラミッド型のほうがバランスとしては優れています。
ピラミッド型は安定するんです。

だから。
生態系ピラミッドをもつ有機栽培は安定しています。
野菜にとっても、土にとっても無理がありません。
結果的に野菜は健康に育つというわけです。

有機栽培は。
このように土をいかに豊かにしていくかを重点に考えた栽培方法です。
育っている様子は同じように見えるけれど、土の中を含めた考え方の部分では慣行栽培とはまったく逆になることを知ってください。

一般的には。
有機か無機か。
農薬を使用しているかどうか。
有機肥料か化学肥料か。
という表面的なところに目を奪われてしまいがちですが、土の中までしっかり見ていくと大きな違いがあることが理解できます。
たんに使っている肥料や農薬の違いではないんです。
ベースになっている考え方が全く違うんです。
このことを頭に入れていただければ、

有機農業ってなんだろう?
有機野菜ってなにがいいの?

といった問いに気持ちよく答えられると思います。
参考になれば幸いです。

 

 

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