タネの安全性 固定種と交配種

有機野菜や無農薬野菜を求めている方のなかには、食の安全についてかなり厳しく考えている方がいらっしゃいます。
農薬や科学肥料について、有機肥料や畜糞堆肥について、ポストハーベスト、遺伝子組み換え、硝酸態窒素、放射能・・・。
本当によく調べておられます。
無農薬の野菜を販売している農家として、そういった方からの質問を受けることもあり、分かる範囲で丁寧に返答させていただくのですが、その後に御注文を頂くということは正直に言えばあまりありません。
それは松本自然農園が安全性を無視しているからだ!
ということではなくて、その方のこだわりに見合うような農産物ではなかったということが言えると思います。
つまり、強いこだわりを持っている方の要望には応えきれないということです。
残念ながら。

以前に別の記事で書きましたが、安全性を追求していくことは生産者である農家にとってもそれを購入して食べる人にとっても、必ずしもよい結果をもたらすわけではありません。
詳しくはarrow070_01安全性よりも健康面を追求したい
度が過ぎれば害にすらなります。
だから松本自然農園では、安全を追求するよりも野菜が健康に育つことに力を注ぐようにしているのですが、
「そうじゃなくてとにかく安全なものを!」
という方にとっては、そのこだわりはどうやら関係ないようです。

 

固定種と交配種

安全を追求していると挙がってくる問題のひとつに
タネの安全性
があります。
野菜を育てるときのスタートになる種まき、ここで使用するタネについてです。
そのタネに農薬はかかっていませんか?
そのタネは交配種ですか、それとも固定種ですか?
交配種だとしたら雄性不稔(ゆうせいふねん)の問題についてどのように考えておられますか?
このような質問を受けることがあります。

このなかから今回は、固定種と交配種がどのようなものかについて説明していきます。
ごく簡単に言って、固定種とか交配種というのはタネの父親と母親がどのような素性を持っているかで分類されます。
人に例えると分かりやすいのですが、
固定種は、両親が日本人、両親がロシア人など同じ人種の両親から生まれたタネ
交配種は、日本人とロシア人のハーフ、というように異なる人種の両親から生まれたタネ
と表現できます。

和服女性
日本人は長い間、ほかの人種とほとんど交わることなく日本人の血を繋いできました。
日本人を全体としてみれば、身長はそれほど高くなく、肌は黄色で髪は黒い、和を大切にして控えめな性格、という特徴をもちます。
日本人同士で結婚して子供を産んで育てる。
その子が大きくなってまた日本人と結婚し、子どもを産んで育てる。
それを繰り返していくことで日本人としての性質は一層強まっていきます。
長い間、命を繋ぎながらその日本的外見・気質ともいうべき性質を固定してきました。
固定種のタネというのは、このような純血日本人的性質を持っているタネということができます。

一方、国際化が進むにつれて、日本人が外国人と結婚することが増えてきました。
日本人の男性と、ロシア人の女性が結婚をする。
そして子どもが産まれる。
よくありますよね。
サングラスと女の子
その産まれた子は一般的に、日本人とロシア人のハーフという言い方がされます。
日本人の血とロシア人の血が半分ずつ入っています。
そして、両方の人種の性質を受け継ぐことになります。
見た目は日本人のように髪が黒くて肌が黄色なんだけど、背が高くて目が青い。
性格は和を大切にしながらも、考えていることを曖昧にせずストレートに表現します。
というような感じです。
交配種のタネというのは、このようなハーフの性質を持っているタネだといえます。

ハーフが産まれるという現象。
これは自然界で、植物の世界でもふつうに起こりうる現象です。
大きな実をつけるけど病気にかかりやすいAという植物。
実は小さいけどとにかく病気には強いBという植物。
この両者が受粉をして交配が行われると、そのタネが発芽して育ってきた植物は
大きな実をつけることができるうえに病気にも強い
という性質を持つようになります。

 

これを商業的に利用して生み出されているのが交配種というタネです。
一代交配種とかF1品種とかいう言い方もされます。
自然界で起こっている現象をうまく利用して、収穫量を増やしたいとか見た目を揃えたいとか美味しさを高めたいとか、さまざまな要望を満たせるような野菜を生み出す努力をする。
そのための手段として交配が用いられているわけです。
けっして反自然な行為ではありませんし、タネの安全性に疑問を投げかけるものでもありません。
だって自然界で当たり前のように起きていることなんですから。

固定種だから安全とか、交配種だから危険とか、そんなのは重箱の隅をつつくようなレベルの話です。
農業者が気にするならともかく、消費者の立場で気にしなければならない問題ではありません。
交配種は危険だ!と言ってハーフの人たちを敵に回しますか?
人種のるつぼと言われるアメリカを敵に回しますか?
交配種と言われるタネを否定することは、ハーフや多国籍国家を否定することに等しい行為です。
・・・ちょっと言い過ぎかもしれませんが。

 

固定種のほうが美味しいというデマ

これとは別に、固定種の野菜のほうが美味しい、という噂も聞かれます。
実際は固定種にも美味しい品種はありますし、交配種にも美味しいものはあります。
固定種だから美味しいと言っているのは純血サラブレッドをありがたがるのと同様で、たんなる思い込みだと考えて間違いありません。
交配するときに美味しさを追求するような品種改良をされているものが少ない。
耐病性とか収穫量ばかりが重視されている。
という傾向があるのは事実ですから、このことを取り上げて固定種のほうが美味しいという主張になるのかもしれません。
ですが、固定種だって美味しいものまずいものありますし、交配種でも美味しいものまずいものはあります。
固定種なのか交配種なのかという基準で品種を選ぶのはナンセンス。
そうではなくて、ごく単純に美味しさを重視している品種を選ぶ、それだけでいいんじゃないでしょうか。

 

気にしないのが最良

このように。
固定種=安全、交配種=危険
という解釈は行きすぎた考えですし、固定種だから美味しいという偏った見方もよくありません。
農家は目的によって使い分けをしているだけです。
とにかく美味しい野菜を育てたいんだ、という農家は美味しい品種を選びます。
その土地に根付いた地元の味を世に広めたい、という農家は昔からある固定種を選びます。
生産第一、たくさん安定して採れることが良いものを安くお届けする一番の近道だ、と考える農家は交配種の中から希望を叶えられる品種を選びます。
たくさんある品種の中から目的にあわせて選択するのであって、そこに固定種限定という枠を設けてしまうのは非常にもったいないことです。
食べる側にとっても、選択の幅を狭めてしまうのはもったいないですよ。

ということで。
固定種・交配種については気にしない、というのが食べる人にとってのベストな立ち位置ではないか。
と私は考えています。
 

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