無農薬野菜なのに農薬の成分が含まれるって?

無農薬野菜のほうが危険!
という話を聞いたことがあるでしょうか。

野菜には自己防衛能力があって、葉を虫に食べられたりすると身を守ろうとして農薬のような物質をつくりだすことができる。
その物質は、科学的に合成された農薬よりも毒性が強い。
だから無農薬野菜は危険だ。

という論理です。

無農薬野菜を育てている農業者という立場でこの話に反論することは、自分のやっていることを正当化することになるので、
保身のために言ってるんじゃないか
と思われてしまう可能性があって怖いんですが、白黒はっきりさせるというよりは事実としてこんな話があるんですよということをお伝えしていきます。
今回の話を知ったみなさんが、どのように判断を下すのか。
楽しみにしつつ、ここでは結論を出さないように書いていきたいと思います。
ぜひ最後までご覧ください。

 

植物の自己防衛

毒キノコ
現代に生きる私たちはもちろん、戦後の食糧難の頃であっても、そのへんに生えている植物すべてを食べていたわけではありません。
食べられるもの、食べられないもの。
美味しいかどうかというよりは、食べて身体に害がないかどうかがその植物を食べられるかどうかの境界になっていたはずです。

その、身体に害がないかどうかという点。
突っ込んでいえば、植物が自分の身を守るために持っている天然の毒素が、人間にとって害になるかどうかということを指します。
もともと植物は、自分の身を守るために天然の毒素を持っています。
フラボノイド、アルカロイド、植物性エクソダイン、グルコシノレート、青酸配糖体、テルペン類、有毒タンパク質・・・。
キノコはそこらに生えているものを適当に食べると危ないよ、ということは多くの人が知っていますが、キノコじゃなくても様々な植物が毒を持っているんです。
その毒で、自分の身を守っているんです。

この毒を弱めたのが、野菜という植物です。
野菜というのは、もともと野生にあった植物を食べやすいように変化させた栽培植物。
ほかの雑草と同じようにそのへんに生えていた野生の植物から、これは食べられそうだと思ったものからタネを取り、それを畑にまいて育てる。
育ったものの中から、美味しいものや大きくなるもの、形のよいものなどを選んでそこからまたタネを取る。
その取ったタネを畑にまいて育て、さらに美味しいものやさらに見栄えの良いものを選んでタネを取る。
ということを繰り返してきた歴史を持つのが野菜という植物です。

このタネを取っていく過程で、食べやすいように苦味やアクがなくなるような改良もします。
それは、毒素が弱いものを選んでタネをとっていくということです。
苦味やアク = 毒素
人間がタネをとっていくことで野菜は人間との共存を選び(選ばされ)、人間が守ってくれるならと毒素を弱めていきます。
そうしてできあがったのが今の野菜です。
野菜という植物は、自然に生えている植物とくらべると天然の毒素は少ないんです。

とはいえ。
それでもまったくなくなったわけではありません。
人間が守ってくれるぶんだけ、毒素を弱めたというだけです。
だから野菜には、天然の農薬が含まれています。
人間が食べて害が出るほどの成分ではありませんが、それでも農薬といえるような成分は持っています。

 

人間の役割と農薬の必要性

人間の手助け
野菜は、人間が種とりを続けて品種改良を続けた結果、体内の農薬成分が少なくなりました。
その農薬成分で本来は外敵から身を守っていたんだけど、成分を少なくしたせいで虫に食べられやすくなってしまいました。
野菜が虫に食べられやすいのは、こんなところにも理由があったんです。
美味しさを求めて品種改良したことで、苦味や青臭さ(農薬成分)が減って、自己防衛能力が低下してしまった。
だから人間が守ってあげなければならないというわけです。

野菜に農薬をかけることは、弱ってしまった自己防衛能力を手助けするということです。
自分でつくらなくなった天然農薬のかわりに、人間が農薬をかけて守ってあげているというわけです。
それなのに。
野菜を守るためにかけている農薬を、わたしたちはけっこう悪者扱いしています。
これって必要なことでしょうか。
もうすこし、ほんのすこしでいいので農薬を認める姿勢があってもいいのではないでしょうか。

また。
自己防衛能力が弱まっている野菜を、無農薬で栽培することの難しさがおわかりいただけたでしょうか。

 

今回の話は、野菜は自己防衛能力が低下していることをお伝えしたものです。
野菜に備わっているもうひとつの能力
葉を虫に食べられたりすると身を守ろうとして農薬のような物質をつくりだすことができる。
は次回の記事で書いていきます。

天然農薬と合成農薬とでは、そもそも比較対象にならない

 

 

 

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